英国におけるナラティブ・レポーティング(記述情報開示)制度の改革について | KPMG | JP

英国におけるナラティブ・レポーティング(記述情報開示)制度の改革について

英国におけるナラティブ・レポーティング(記述情報開示)制度の改革について

2012年10月、英国の会社法を管轄するビジネス・イノベーション・職業技能省(BIS)※1は、上場企業によるナラティブ・レポーティング(記述情報開示)制度に関する改正案として”The Future of Narrative Reporting※2”を公表しました。

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従来、英国の年次財務報告書(アニュアルレポート)における財務諸表を補完するものとして、非財務情報や記述的情報を記載した取締役報告書(Director’s Report)の提出が義務付けられていますが、この取締役報告書の形骸化が指摘されていました。今回の制度改革により、上場企業に関しては取締役報告書の一部として記載される「事業概況(Business Review)」の内容を強化した「戦略レポート(Strategic Report)」を別途作成することが要求されるようになります。この改正案が成立した場合、2013年10月に施行される予定です。戦略レポートには、戦略やビジネスモデルの他、女性の雇用状況や人権に関する方針・実績などの情報を含むことが求められており、実質的な統合報告を促す制度的な枠組みと理解することができます。

ナラティブ・レポーティング(記述情報開示)とは

ナラティブ・レポーティングは、財務諸表以外の企業情報開示であり、その定義は財務報告制度によって様々ですが、広義には、財務諸表を補完する定性的(記述的)情報や非財務パフォーマンスに関する情報を含むものと理解することができます。

ナラティブ・レポーティングは、環境や社会、ガバナンスや経営者報酬などのいわゆるCSR関連情報を含む形で近年その開示領域を拡大しており、統合報告の概念の発展にも深くかかわっています。

ナラティブ・レポーティング制度の改革の背景

2006年に英国で制定された現行の会社法は、小規模会社を除くすべての会社の取締役に、事業年度ごとの取締役報告書を作成し、その中に「取締役の氏名」「主要な事業内容」「事業概況」を含めることを義務づけています。このうち、事業概況の開示項目は、以下のとおりです。

表2 英国会社法第417条に定められる事業概要(Business Review)の開示内容

第3項(a) 株主の評価を支援する事業と情報の公正なレビュー
第3項(b)
会社が直面する主要なリスクと不確実性の記述
第4項(a) 会計期間における事業の発展と業績に関する包括的な分析
第4項(b) 期末時点の財政状況に関する包括的な分析

上場企業においては、事業の展開・業績・状況を理解する上で必要な範囲において以下の情報を開示することが求められる

第5項(a) 将来の会社の事業の発展、業績、または状態に影響を与える可能性が高い主要なトレンドおよび諸要因に関する分析
第5項(b)(i) 環境問題およびこれに関連する特定の政策とその有効性を含めた事業に与える影響に係る環境に関する情報
第5項(b)(ii)(iii) 従業員、社会および地域社会に関して関連する特定の政策とおよその有効性を含めた問題に関する情報
第5項(c) 会社事業に不可欠な契約その他の取り決めのある関係者に関する情報

小規模会社を除くすべての会社は、会社の事業の展開・業績・状況を理解する上で必要な範囲において以下の情報を開示することが求められる

第6項(a)(b) 財務的KPIおよび環境問題や従業員に関連する非財務的KPI
(中規模会社は非財務KPIの開示は免除)
第8項 年次計算書類に含まれる金額の参照および追加的な説明

出典:Companies Act 2006, Chapter 15, 417 Contents of directors' report: business reviewよりKPMGあずさサステナビリティ作成

これは、EU会計近代化指令(EU Accounts Modernization Directive)の求めに従ったものでしたが、企業にとって著しい不利益が生じる場合には交渉中の事案についての情報開示を免責・免除することや、環境と従業員の他のKPIの開示は任意とすることで、企業側の開示コスト軽減に配慮されたものでした。

その後、リーマン・ショックなどの金融危機を背景に、非財務情報に対する投資家の関心が高まり、コーポレート・ガバナンスやビジネスの透明性に関する政策的な取り組みが進みました。また、企業に温室効果ガス排出量の開示を義務付ける気候変動法(Climate Change Act 2008)の成立や統合報告に関する国内外での議論の進展もあり、取締役報告書の一部として開示されていた事業概況の実務的な意味合いが大きくなってきました。

こうした状況を受け、英国政府は、2010年からナラティブ・レポーティングに関する改革に着手しました。2011年には1回目の草案がパブリックコメントに付され、2012年10月、今回の制度改革案の公表に至りました。

戦略レポートの内容

今回提示された制度改革案においては、取締報告書の一部としての事業概況に替えて、戦略レポートという独立した文書として非財務情報を開示することを求めています。戦略レポートの開示内容は、以下の通りであり、企業戦略、ビジネスモデル、人権課題、取締役の性別内訳などの情報を含んでいる点が従来の事業概況における開示項目からの変更点として挙げられます。また、英国政府は企業のGHG排出量の報告義務化※3を決定し、規則案を並行して検討していますが、現段階で取締役報告書に含めることが想定されているGHG排出量についても、将来的には戦略レポートに含まれるようになる可能性が高いと考えられます。

表3 英国会社法第414C条規則案に定められる戦略レポート(Strategic Report)の開示内容

第2項(a) 株主の評価を支援する事業と情報の公正なレビュー
第2項(b) 会社が直面する主要なリスクと不確実性の記述
第3項(a) 会計期間における事業の発展と業績に関する包括的な分析
第3項(b) 期末時点の財政状況に関する包括的な分析

上場企業においては、事業の展開・業績・状況を理解する上で必要な範囲において以下の情報を開示することが求められる

第4項(a) 会社の戦略の記述*
第4項(b) 会社のビジネスモデルの記述*
第4項(c) 将来の会社の事業の発展、業績、または状態に影響を与える可能性が高い主要なトレンドおよび諸要因に関する分析

以下の情報については、会社が開示を行わない場合はその情報が非開示である旨記載しなければならない*

第4項(b)(i) 環境問題に関連する特定の方針およびその有効性を含めた情報(会社の事業が環境に与える負荷を含む)
第4項(b)(ii) 従業員に関連する特定の方針およびその有効性を含めた情報
第4項(b)(iii) 社会、地域および人権問題に関連する特定の方針およびその有効性を含めた情報*

上場企業においては、以下の情報を開示することが求められる*

第5項(a) 取締役人数の性別内訳*
第5項(b) 執行役人数の性別内訳*
第5項(c) 従業員人数の性別内訳*

小規模会社を除くすべての会社は、会社の事業の展開・業績・状況を理解する上で必要な範囲において以下の情報を開示することが求められる

第7項(a)(b) 財務的KPIおよび環境問題や従業員に関連する非財務的KPI
(中規模会社は非財務KPIの開示は免除)
第10項 年次計算書類に含まれる金額の参照および追加的な説明

*現行法からの変更点

出典:The Department for Business, Innovation and Skills, THE FUTURE OF NARRATIVE REPORTING: A new structure for Narrative Reporting in the UK よりKPMGあずさサステナビリティ作成

新規開示項目

戦略レポートでは、上場企業に対して会社の戦略とビジネスモデルを記述的に説明することを求めています。戦略やビジネスモデルは、統合報告の国際基準の策定に取り組む国際統合報告委員会(the International Integrated Reporting Council)が、統合報告書において開示されるべきものとしている内容要素でもあります。一方、これらは、英国における上場規則として2010年に英国財務報告協議会(The Financial Reporting Council Limited:FRC)が示した「コーポレート・ガバナンス規範」に含まれる内容であり、すでに多くの上場企業が対応しているため、政府としては企業側に新たな負担を強いるものではないとしています

人権問題については、2011年のパブリックコメントによって開示が望ましい項目として支持され、今回の改正規則に含まれることになりました。

取締役以下の役員・従業員の性別内訳については、2011年2月に発表された「デービス・レポート」※4や、欧州委員会における取締役会の女性割当に関する議論を反映したものです。デービス・レポートにおいては、FTSE 350の構成企業に対し、2011年9月までに女性取締役の目標数を設定すること、FTSE 100の構成企業に対しては、2015年までに女性取締役の比率を25%まで高めるよう提言しています。欧州委員会では、2015年までに30%、2020年までに40%という目標を示しており、フランス、オランダ、スペイン等のEU加盟諸国ではすでに法制化を済ませているという状況です。

この改正規則が成立した場合、2013年10月以降に報告年度が終わる企業から適用されます。統合報告フレームワークは、2013年12月に公表予定となっていますが、英国における戦略レポートの制度化はこうした国際基準を先取りした動きであると言えます。

※1 英国のビジネス・イノベーション・職業技能省(BIS):ブラウン政権下で行われた内閣改造に伴い、イノベーション・大学・職業技能省(Department for Innovation, Universities and Skills; DIUS)とビジネス・企業・規制改革省(Department for Business, Enterprise and Regulatory Reform; BERR)を統合して、2009年6月5日に設置された。

※2 The Department for Business, Innovation and Skills, THE FUTURE OF NARRATIVE REPORTING: A new structure for Narrative Reporting in the UK, October 2010(英語サイト)

※3 弊社ニューズレター「英国で企業の温室効果ガス排出量報告義務化が決定」(2012年7月)をご参照ください。

※4 Women on Boards(英語サイト)

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