パンデミックにより不確実な状況が続いたこの2年間、多くのファミリービジネスが粘り強さと持続可能な競争力を駆使して逆境を機会に変えました。ファミリービジネスのアントレプレナー的な思考と行動、そしてファミリーの能力とファミリービジネスへの帰属意識が、いかにして持続可能な競争力の根源となり、ビジネスとファミリーの長期的なパフォーマンスの主要因となっているのかについて、調査結果全体を詳しく分析します。

エグゼクティブサマリー

  • アントレプレナーシップの強さは、ファミリービジネスが臨機応変に適応し、イノベーションを起こし、成長するための最も重要な要因の1つである。
  • ファミリーによるコントロールと影響力や、ファミリービジネスへの帰属意識も、持続可能な競争力の主要因である。
  • アントレプレナーのような高いパフォーマンスを達成するには、次世代のファミリーメンバーが、リスクを引き受けて自分で判断するための機会を与えられなければならない。
  • ファミリービジネスのリーダーシップのスタイルは企業のパーパスに沿ったものであるべきで、外部環境や企業の成長段階とパフォーマンスに応じて変える必要がある。

アントレプレナーシップ

革新性、積極性、リスクテイクの融合

ファミリービジネスの持続的な競争優位性の源泉は、ファミリーのリソースと能力、そして会社の持つ起業家精神という、他社が真似することが難しい2つの要素の上に成り立っています。ファミリービジネスのアントレプレナーシップには以下3つの側面があります。

  • 革新性:革新的な製品・サービスおよび研究開発に投資する傾向
  • 積極性:市場の需要を予想し新たな機会を獲得する能力
  • リスクテイク:高いリターンをもたらす可能性のある、大きなリスクを取る傾向

金銭面以外の資産

世代を超えたアントレプレナーシップの第2の重要な要素は、ファミリーの社会情緒資産、すなわちファミリーがビジネスを所有し、経営することからもたらされる感情的な価値観です。社会情緒資産はファミリー独自の問題の捉え方を表しており、以下3つの特性が、彼らの行動によってどのような影響を受けるのかを反映しています。

  • ファミリーによるコントロールと影響力
  • ファミリービジネスへの帰属意識
  • 感情的愛着

パフォーマンスの追求

ビジネスの持続可能性にとって、財務成績が重要であることは明らかです。しかし、企業の持続可能な競争力にとって、創業者のビジョン、アントレプレナー主義の文化、責任ある所有者という評判を保持することは、等しく重要な要因です。ファミリービジネスのパフォーマンスを計測するうえで重要な要素として、次の項目が挙げられます。

  • 財務パフォーマンス
  • アントレプレナーシップ
  • 非財務パフォーマンス(ファミリーの団結力など)
  • 社外的な社会的パフォーマンス(環境への影響など)
  • 社内的な社会的パフォーマンス(革新的な雇用慣行など)

リーダーシップのスタイルとパフォーマンスへの影響

リーダーシップのスタイルは、パフォーマンスに影響する重要な要因となる可能性があります。ファミリービジネスでは、「変革型」「カリスマ型」「独裁型」の3つのリーダーシップスタイルが見られますが、スタイルはビジネスの状況、創業からの年数、成長段階などに応じて変化するものです。すべての地域のCEOから全般的に好まれているのが変革型のスタイルです。変革型リーダーは、「フォロワー」の基本的な価値観、信条、態度を変革または変化させる能力があり、フォロワーは積極的に期待以上のパフォーマンスを自ら進んで発揮するようになります。変革型リーダーが率いる企業は一般的に、ファミリーの忠誠心と帰属意識を構築しながら、優れた財務成績を残し、社会・環境面の進歩にも貢献しています。

アントレプレナー的なファミリー

アントレプレナーシップが高い、社会情緒資産が高水準

本稿では、ファミリービジネスのプロファイルを4つのカテゴリーに区分しています。「アントレプレナー的ファミリー」のカテゴリーに該当する企業は、パフォーマンス水準の値が高く、特に、財務面の成果と、非財務のファミリーパフォーマンス(社会情緒資産に関連する要素)が高水準で、社内外の社会的パフォーマンスも高い水準を示しています。このカテゴリーの企業が、高パフォーマンスの文化を発展させ続けるための具体的な提案の一部は以下のとおりです。

  • 次世代のファミリーメンバーに働きかけて、責任を共に担いイノベーションのプロセスをリードするよう促す。
  • 従業員フォーラムを創設し、ESGや製品イノベーションの分野における革新的な思考を奨励し、報酬を与える。
  • 「影の取締役会」を設置することで既存の取締役会を補完し、多様な物の見方と経験を既存の取締役会に取り入れる。

ビジネス第一主義のファミリー

アントレプレナーシップが高い、社会情緒資産が低水準

「ビジネス第一主義のファミリー」のカテゴリーに該当する企業は、財務パフォーマンス、社内外の社会的パフォーマンス、デジタル化の水準は高いものの、非ファミリーおよびファミリーのパフォーマンスの水準が低くなっています。このカテゴリーの企業が、強みを強化し発展させるための具体的な提案の一部は次のとおりです。

  • ビジネスの専門性を高め、革新的なテクノロジーの採用を加速させるために、次世代のファミリーメンバーを抜擢する。
  • 自社の良好なパブリックイメージを発展させ、伝え続ける。
  • ファミリー憲章を制定し、規則に則った後継者選びの仕組みや、ファミリービジネスへのファミリーメンバーの参画に関する明白なルールを定める。
  • ファミリー株主と他のファミリーメンバーが一堂に会する集会を毎年開催する。

ファミリー第一主義の企業

アントレプレナーシップが低い、社会情緒資産が高水準

「ファミリー第一主義」のカテゴリーに該当する企業は、非財務パフォーマンスが比較的高い水準(特にファミリーによるコントロールと影響力)を示し、財務および社会的パフォーマンスが低水準を示しています。ファミリービジネスのアントレプレナー水準を向上させるための具体的な提案の一部は次のとおりです。

  • 確かなアントレプレナー的スキルをビジネスにもたらし、精力的なイノベーションの成果をもたらすことができる非ファミリーメンバーをリーダーに指名する。
  • 有能なファミリーメンバーと非ファミリーメンバーを組み合わせて、取締役会を設置または改革する。
  • ファミリーメンバーが新しいビジネスのアイデアを生み出し、自らベンチャービジネスを立ち上げるよう奨励する。

業績不振の企業

アントレプレナーシップが低い、社会情緒資産が低水準

「業績不振の企業」のカテゴリーに該当する企業は、アントレプレナー主義と社会情緒資産の両方が低いファミリービジネスであり、全カテゴリーの中で最も大きな改善の余地があります。社内のアントレプレナー的な強みとファミリーの社会情緒資産を再構築する具体的な提案の一部は次のとおりです。

  • イノベーション文化を持ち続けることを重視し、従業員から優れたアイデアを募って競わせ、その後、そのアイデアを実現する権限を彼らに与える。
  • 事業運営のデジタル化を推進する。
  • 取締役は、ファミリーの価値観、使命、ビジョンに沿った達成可能な戦略を立てるのを助けることが自らの役割であることを認識する。
  • 年に1度のファミリー集会を開催してファミリーメンバーの企業との結びつきを強化する。

持続可能な競争力の再チャージ

ファミリービジネスにすでに存在する強みをさらに発展させ続けるために、まずは以下を含むポイントについて考えてみることをお勧めします。

  • 現時点の貴社のアントレプレナー主義の水準を計測するには、どのような方法が考えられますか?
  • 次世代のファミリーメンバーは、貴社のビジネスの方向性にどのような影響を及ぼしつつありますか?
  • ファミリーメンバーはビジネスと十分に結びついていますか?
  • ファミリーメンバーはスチュワードシップの環境で成長し、企業のパーパスとバリューを伝達し、継承する各世代が企業を活性化し続けられるようサポートしていますか?
  • 貴社のリーダーシップ手法を活性化すべき時が来ていますか?

英語コンテンツ(原文)

The regenerative power of family businesses

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