医療機器産業の展望 2030 - パワープレイによってコモディティ化の罠を回避する

医療機器メーカーは、単なる製造業から脱却し、サービスとデータインテリジェンスを製品と一体化した包括的なソリューションを提供することが必要となります。

医療機器メーカーは、単なる製造業から脱却し、サービスとデータインテリジェンスを製品と一体化した包括的なソリューションを提供することが必要となります。

ハイライト

単に機器を製造し、販売代理店を介してそれを医療サービス提供機関に販売していればよかった時代は、はるか昔に過ぎ去っています。本レポートでは、医療機器メーカーが、以下に示す3つの戦略に従って、2030年の成功に向けて進むべき道筋について検討します。


リ・インベント
医療機器メーカーは、未来に適応するために自社の現行組織を詳細に点検し、従来のビジネスモデルとオペレーティングモデルを見直して、変革するリ・インベントを実施すべきです。


リ・ポジション
2030年には、外部環境がダイナミックに変化すると予想されます。医療機器メーカーは、新規参入企業、新しいテクノロジー、新しい市場など、新たに想定される競争環境の中で自社のポジショニングを見直し、激動の力に対処できるようにする必要があります。


リ・コンフィギュア
2030年までに医療機器メーカーは従来とは大きく異なる役割を担うようになるでしょう。それに応じて、自社が果たす役割を再構築する必要があります。現行の組織のあり方を見直すリ・コンフィギュアを実施することで、バリューチェーンの単なる参加者であることから脱却し、持続可能な医療費を実現するソリューションプロバイダーへと変貌を遂げる必要があります。

行き詰まりを避ける

限度を超えた圧力が現状を破壊的に変革する

医療機器産業は着実な成長が見込まれており、全世界の年間売上は年率5%超で増加し、2030年までに8,000億米ドル近くに達すると予想されており、革新的な新しい機器(ウェアラブルなど)とサービス(医療ビッグデータなど)に対する需要の増大を反映しています。
このような一見したところ魅力的な展望とは裏腹に、容赦のない価格下落圧力がこのセクターに影を落としています。世界中の政府が医療費削減に懸命に取り組んでおり、特に、医療制度の中で最も費用のかかる病院がその舞台となっています。政府は、医療機器への支出を抑制しながら、その根拠を患者アウトカム(転帰)の向上という点で見出したいと考えているのです。


多くの購買事例で、その意思決定の責任は、すでに臨床部門の購買担当者(クリニカルバイヤー)の手を離れ、財務部門の担当者(エコノミックバイヤー)へと移っています。
これに加えて、新規プレーヤーがこの業界に破壊的変革を引き起こそうとしています。その手法は、データを活用して、顧客、患者、および消費者を手中に収めることです。この激しく変動する新しい市場環境の中で、既存の医療機器メーカーは、バリューチェーンの中で行き場を失って単なるコモディティ生産者へと転落する重大なリスクにさらされています。

進化するバリューチェーン

医療機器バリューチェーン全体でパワープレイ(覇権争い)になる

従来、医療機器メーカーは、主として製品を製造して販売することを通じて価値を提供してきました。しかし、医療制度に対する圧力が高まるにつれて、ケアデリバリー(医療提供)モデルに根本的な変化が生じており、その結果として、この業界のバリューチェーンに抜本的な改革の機運が生じています。このニューノーマル(新たな常態)の中で、企業は、従来の製造の役割から脱却する必要があります。サービスとデータインテリジェンスを製品と一体化した包括的なソリューションとして提供することが必要となり、そのため、バリューチェーン全体にわたる「パワープレイ」(覇権争い)が要求されるでしょう。すなわち、既存の企業間(B2B)取引を強化し、新しいB2Bの取引関係を生み出しながら、企業対消費者間(B2C)取引を導入することが求められるのです。そうしたパワープレイには、おそらく、非常に多くの取り決めや交渉、例えば、合併や買収(M&A)、戦略的アライアンス、そしてパートナーシップなどを次々と実施することが含まれるでしょう。

リ・インベント - リ・ポジション - リ・コンフィギュア

リ・インベント - デバイス中心から脱却する

2030年までに、顧客、患者、および消費者(エンドユーザー)との結び付きを強めることによって価値の提供で積極的な役割を果たす医療機器メーカーが、業界の主要プレーヤーとなるでしょう。エンドユーザーに近づくことを目指して、メーカーは今、これまで以上にデータを活用し、インテリジェンスを製品の中に組み込むべきです。これは新しい機器の価値提案の必要不可欠な要素になりつつあります。データと分析機能により、メーカーは、ユーザーと直接かつ継続的に結び付くことができるため、予防を診察や治療に先立って行うことができます。


すでに、このコンセプトを実証する事例が出現しています。Philipsは、そのデジタルヘルスケアプラットフォームであるPhilips HealthSuiteを通じて、健康な生活、予防と診断、治療、回復、そして在宅ケアなどの非常に幅広い分野で、市場シェアの拡大を図っています。このクラウドベースのプラットフォームは、IoT技術を利用して、多くの機器からデータを収集して分析するものであり、最終的には、相互接続された数億の患者、機器、そしてセンサーをサポートできるようになる見込みです。


医療機器を在宅で利用する、あるいはウェアラブルで常時使用されるようになると、エンドユーザーとの関係が劇的に変化します。臨床医は病気を診断し、監視し、予防することに役立つインテリジェンス(専門的な情報)を受信できるようになり、患者は不要な(そして高価な)病院通いをする必要がなくなり、患者も消費者も生活習慣や食事療法に関して有益なアドバイスにアクセスできるようになります。2016年に、遠隔モニタリングによって監視されている患者の数は44%増加しており、2021年までに5,000万人を超えると予想されています。また、遠隔患者モニタリング機器の世界市場は2025年までに19億米ドルに達する見通しです。

リ・ポジション - 新しい競争環境

2030年の医療機器の競争環境は、現在の状況とはまったく異なる様相を呈するでしょう。その変化を引き起こすのは、従来とは異なる新規参入企業、破壊的なテクノロジー、そして高成長市場から出現するグローバルな野心をもったプレーヤーです。

電子商取引の巨大企業であるアリババ(阿里巴巴/Alibaba)は、膨大なロジスティクス能力と巨大な顧客ベースを活用して、すでにこの市場に参入しています。米国のオンライン通販業者は、この前例に追随しようとしています。その一部の企業は、点滴ポンプ、カテーテル、IVバッグ、縫合糸、鉗子、病院用ベッド、外科用メス、およびその他の検査用品をはじめとする多種多様な医療用品を広範に取り揃えています。そのような通販企業は、20%もマージンを切り詰めて、既存の医療用品流通販売事業者やメーカーに圧力をかけることもできます。こうした新規参入企業は、今後、次第に規制障壁を克服し、高級市場にも進出し、よりハイエンドの製品も販売するようになると予想されます。

新たな競合企業は、スマートデバイスからデータを取り込んで分析することで、この業界への参入を図っており、パフォーマンス(効果)やアウトカム(転帰)をより正確に測定して、最終的に診断と治療を向上させる方法を提供しようとしています。その例として、いくつかの企業が情報を無線でスマートフォンアプリに伝送し、クラウドを通じて医師に転送するスマートコンタクトレンズやスマート吸入器の開発に取り組んでいます。ある著名なテクノロジー企業は、自社のウェアラブルデバイスがヘルスケア業界における「聖杯」になるとまで公言しています。既存の企業は、そのような新しい提案は話題作りの奇策に過ぎないと一笑に付しがちですが、そうした見方には慎重であるべきであり、他の業界の既成勢力が新しいインテリジェンス重視の企業によってどのように取って代わられたり、脇役に追いやられたりしてきたかを再検証してみるべきです。テクノロジー企業が最大の競争上の脅威をもたらす可能性が高い一方、思いもよらない業界(例えば、ゲーム業界)から新規参入企業が出現する可能性もあり、市場シェアを確保するために利益を捨てる覚悟で臨んでくる企業が参入してくることもあり得ます。

リ・コンフィギュア - 将来のバリューチェーンの中に活動の場を確保する

市場がますます進化する中で、コモディティプロバイダーへと追いやられるのを避けるために、既存企業は2030年の医療機器バリューチェーンの中における自社の位置づけを検討する必要があります。最強かつ最大のプレーヤーでさえ、破壊的な新規参入企業や、グローバルな競争、そしてテクノロジーの飛躍的進歩から身を守ることは容易ではありません。医療機器メーカーは、自社のバリューチェーンを再構築するリ・コンフィギュアを実行するために、自社が未来の医療システムにもたらすことができる価値へ焦点を当て、勇敢な、しかし本質を見据えたパワープレイ(覇権争い)を検討する必要があります。事業部門ごとに異なるバリューチェーン構造が必要となる可能性が高いため、選択肢の慎重な評価と調整が必要となります。以下に、2030年に存在していると予想される構造をいくつか示します。

  1. 新しいB2C取引を生み出す
  2. B2B取引を強化し、統合する
  3. バリューチェーン全体を網羅するメガプレーヤーを目指す

現在の医療機器業界に属していない企業も含めて、少数の企業が、財務的な影響力を活用してケアの「ワンストップショップ」へと姿を変えていくでしょう。そうした企業は、自社がバリューチェーン全体を完全に所有するような構造を再構築し、製品、サービス、インテリジェンスの総合スイートを提供します。

2030年に優位を維持する

2030年に向けた旅に出発し、「リ・インベント - リ・ポジション - リ・コンフィギュア」戦略を実現するために、私たちは何を実行できるでしょうか?将来的に勝算の高いバリューチェーン構造を生み出すために、医療機器企業は以下の推奨事項を検討すべきです。


新しい価値提案を定義する
顧客、患者、および消費者を念頭に置き、「デバイス優先」ではなく「ユーザー基準」のアプローチに従って、自社を差別化する製品、サービス、およびインテリジェンスの組合せを決定してください。今後10年間は、診察や治療よりも予防を重視すべきであり、機器を大きく超えた価値を、医師や患者だけでなく消費者にも提供していくべきです。2030年の価値提案へ向け、医療機器企業は単に顧客にサービスを提供するのではなく、個々のケアジャーニーの各ステップに寄り添ってアドバイスを提供していくことになるでしょう。


スマートに投資する
未来のテクノロジーが自社のグローバルビジネスに及ぼす影響を先見的に理解する必要があります。強固な意思決定の枠組みによって、能力を社内で構築するか、外部から購入するかの選択をサポートし、確固としたテクノロジーロードマップによって、データからインテリジェンスへの経路を明確に示すべきです。


コラボレーションを通じてエコシステムを確立する
ビジネスモデルとオペレーティングモデルの選択を行うためには、おそらく外部の広範なネットワークから能力を募ることが必要となるでしょう。今後も、規模の拡大とポートフォリオの多角化を意図したM&A活動が継続します。一方で、サービスとインテリジェンスへの移行は、それに見合った能力を獲得することに焦点を合わせた提携や協調の取引活動をバリューチェーンの内外に生み出すでしょう。業界横断的なつながりを含めて、幅広く協力し、共同実験を実施し、さらには選択したバリューチェーン構造の目標を満たすためのコーペティションさえも検討するべきです。


柔軟なモジュール型の組織構造を採用する
激しく変化する環境の中で、医療機器メーカーは、市場機会にすばやく反応し、取引自体が要求する「ディールスピード」で動くことで、成長をもたらす取引から価値を実現する必要があります。適切なレベルのガバナンスを部門ごとに維持しながら、より迅速な意思決定を可能にすることが必要であり、特に、ポートフォリオ(製品、サービス、インテリジェンス)とテクノロジーに関する判断は迅速化が必須です。


未来を過去から切り離す
エンドユーザーをより深く理解し、その新たなニーズを掘り下げながら、2030年に自社のビジネスがどのようなものとなるかについての多様なシナリオを作成してください。業界を制するための「攻略本」が書き換えられるのを待っていてはいけません。将来は、現在数千米ドルもする機器が、いずれ100米ドル以下で買える携帯機器に取って代わられることも十分にあり得る(というより、ほぼ確実にそうなる)のです。


レポートの全文についてはダウンロードPDFをご参照ください。

英語コンテンツ(原文)

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